第一回「英語喉・著者/上川一秋さん」 カテゴリ: インタビュー


 

 uekawa2

  

 

英語喉・著者の上川さんの発言は非常に物議を醸す事が多い。

これはブログでも、Twitterでも、そしてYouTubeでの発言においても。

英語喉、という喉をリラックスさせ、ネイティブが使っている発声ポイントにフォーカスし、

そして英語本来のシラブルをないがしろにする事なく正しく模倣する、

というのが僕の英語喉の理解です。

至極当たり前、というか上川さんがおっしゃっている、そして提唱している本質は英語の発音、

発声においてはなんの異存もないはず。

 

 

ただ、時に断定的なそして排他的な発言がそういう誤解を生むのかもしれない、という

思いが僕にはずっとありました。例えば上川さんは英語を100%聞き取れる、と言い切ります。

この100%という数字はとても危険な数字で、100%と言い切った時点で

一切の例外は除外されてしまう。

 

洗剤や石鹸、歯磨き粉、

などのコマーシャルに於いても洗浄率は99%と謳うのが最高値だと思います。

映像でも必ず完全に汚れが落ちるところまでは描かない。注意深く見ると必ず映像の最後は

少し汚れが付いた状態で終わっています。つまり保険をかけているんです。

上川さんが100%と言い切るのは心意気の表れなのではないだろうかと個人的には思っていて、

何もわざわざ100%と言い切る必要はないはずなんです。

リスニング力の高い事が証明できれば誰も100%の理解など

期待してはいないし、そもそも色んな環境下で例外は出てくるはずです。

 

そういったところを踏まえて100%と言い切る上川さん。

そういった細かな所で多くの方がそういった発言の事ばかりに注目し、

上川さん自身の英語力にはあまり目を向けていない現状を僕は感じていました。

今回のインタビューで僕がフォーカスしたかったのは上川さんの英語力、

そしてそこに至るまでの学習の過程です。

上川さんご自身の英語力が相当なものであることに異論はないでしょう。

そして英語で苦労もしてきたはず。

 

 

誰も触れなかった「上川一秋」にぐっと迫れればと思います。

 

 

セレン(以下・セ)

:よろしくお願いします。

 今日は普段上川さんがおっしゃられている発音であったり話し方、

という部分を掘り下げるのではなく、

 上川さんの英語力にフォーカスさせていただきたいと思っています。

 

上川一秋(以下・上):はい、こちらこそよろしくお願いします。

 

:まずお聞きしたいのは上川さんがどうして英語に興味を持ったのか、

そしてまたその原体験を覚えていたら教えていただけますか?

 

 

:中学1年生の時の英語の先生がラジオを聞けということで

  NHKのラジオ英語講座を聞き始めたんです。

  3ケ月分ほどのコピーをまとめてくれました。

 

  今思うと、英語に「音」から入れたのは良かったと思っています。

  そして授業では教科書だけではなく、ドリルのようなものを使っていました。

  構文が羅列されているようなシンプルなもので、そこにあった沢山の構文に集中してやってました。

 

 

:その中1の時点で英語がご自身に取って今後特別なものになっていく

  予感めいたものはありましたか?

 

:当時は英語を使う機会はまったくありませんでした。ただ将来英語を使いたい、

  という思いはありました。

 

  試験のために英語をやるという感覚はありませんでしたね。

 

  ですので将来英語を使えるようになるためにはどうしたらいいか

  という視点で英語には触れていました。

  FEN、VOAなどのラジオを理解できなくても聞いていましたよ。

 

:その当時からその視点で英語を捉えていた時点ですごいなと僕は思うんですが、

  学校の成績にはどう反映されていましたか?

 

:成績は10段階中7程度でした。

  他のもっと成績のいい生徒は試験や教科書の丸暗記などに取り組んでいたような気がします。

 

  僕はそういうことはしてなかったです。

  高校生になった時にテストで100点を取った生徒がクラスにいまして、

  彼にどう勉強しているのか

  聞いた時にはじめて「音読」の存在を知りました。

 

  繰り返し声に出して読む、という作業でした。そこで、「なんだ」と思ったわけです。

  みんなそういう風にしてるのか、と思った。

  ただ、僕にはそれは丸暗記のような印象であまり面白くなかった。

 

:英語を使う機会があまりなかったということですが、

  成長の過程でご自身で英語を使い始めた、というのはいつ頃だったのでしょうか?

 

 

:大学に入ってからですね。いきなりすっと話せた、という印象があります。

 

  外国人同士の会話はさすがについていけませんでしたが、

  面と向っての会話はほぼ問題ありませんでした。僕は田舎者なので、

  ただシンプルな文章を使っていただけのような気もします。

 

  広島弁自体で元々主語と動詞を組み合わせた単純な文を話していたので、

  それを英語にそのまま当てはめた感じです。

  その感覚は今も変わりません。

 

  英語を話せない人からするとペラペラ話している印象かもしれませんが、andやifなどで単純な文を

  つないでいるだけ、という感じです。

 

:ただ、そうは言ってもそう話すこと自体が難しいという人はいると思いますし、

  それは一つの能力だと思います。

 

  それも含め言語の運用能力が非常に高いのではないかという感じがしますが、

  ご自身ではいかがですか?

 

:大学でのアカデミックな分野、研究の専門分野では話す事がもう明確にあるんです。

  リサーチの発表にも決まった型があります。

 

  日常会話では見たまま、思ったままをシンプルに話すように心がけているだけなんです。

  だから自分の発言でimpressしようとするのではなく、

  相手が言いたい事をinviteするようなイメージです。

 

:僕は常日頃上川さんの英語に対するアプローチから

  学習者が学べるものが沢山あると思っています。

 

  上川さんの英語への理解、接近というのはかなり本能的、

  感覚的に行われている気がしていまして。

 

:感覚でないと英語は話せないでしょう。

 

:そう言い切れる所が凄いと思うんです。

  感覚に頼れないから多くの日本人は文法や

  文章の暗記といった確定事項になびいてしまう。

 

  大学の時にESS(関西の大学生同士が英語ディベートをする非常に高度な活動で、

  当時関西の学生の間で上川さんはかなり恐れられていた存在だったようだ。)

  に入られていたんですよね。

 

:親戚のおじさんと父親に勧められたんです。

 

:ここで改て思うのは、中学の時から英語を始め、

  上川さんご自身がかなり英語というものにしっかり取り組んでこられたんだな、

  ということです。

 

:何故かというと、英語を始めた時からスッと理解できたからなんです。

 

:多くの人は上川さんというのは自然に英語が出来るようになって、

  なんだかんだ自然に発音をマスターしアメリカに行き、

  なんかYouTubeで好き勝手言ってる人

  という印象に偏りがちな気がします。

 

  失礼な言い方ですが(笑)

  ただ、そうではなく、

  やはりかなりしっかりとした学習のバックグラウンドがあるんだな、

  と今日感じました。

 

:僕は発音から入ったんです。

  文法、言い回し、などではなく、発音自体にとてもすんなり入れたんです。

 

  そこからどんどん英語に入っていった。 

  だから大学のときESSで英語が聞き取れない人がいる、

      ということを考えたことがなかったんです。

 

:いやいや、そりゃそうですよ(笑)

  それは上川さんのレベルが桁違いだったということでしょう。

 

:それはでもやっぱり発音がしっかりできたからだと思いますよ。

 

:上川さんは英語喉、をご自身で提唱する以前に発音にはどう取り組んでいたんでしょうか?

 

:とても良い質問ですね。

  今思うと、気にしていたのはRの音だけです。それ以外はなんとなくです。

 

:THやF、Vなどもですか?

 

:ええ、特に何もしていません。

  喉自体を緩める意識はありました。

 

  後はクラブ活動も含めあまり厳しい環境の中で育たなかったので、

  ずっと楽に英語を話していました。

 

:この間、ご自身でYouTubeに10年前のご自身のプレゼンをしている

  音声をアップされていましたね。

    「英語喉著者が英語喉に出会う前の英語」 

 

   ご自身で聞いてみて、今だからこそわかる、当時からできていた事、

   できていなかった事など気付きはありましたか?

 

:あります。当時からシラブルは正しく理解していたと思います。

  日本人はシラブルを無視します。

  そこに早くから気付いていたので当時からリズムは自然だと思います。

  あとはリエゾン(音同士の連結)にも自然に気付けていました。

 

  当時は英語喉を知らずに無意識に実践していたことですが、

  どうして他の人はできないんだろうかという思いがあります。

  どうしても発音の話になってしまってすいません(笑)

 

:いえいえ、僕自身、今日お伺いしたかったのは、そこでもあります。

  先ほどおっしゃられていたように英語という入り口を「音」を通過して入っていますね。

  その原体験はやはり大きかったのでしょうか?

 

:ロックを聴く時も歌詞カードなどを参考にはしましたが、

  主に聞こえる音から入りました。

  音から入ると英語は簡単なところがあるんです。

 

  セレンさんが驚異的な成長を見せているのも

  あなた自身が音楽家であることもあるんではないですか?

 

:それは多くの方に言われます。

  僕は言語のリズムも音楽のリズムも、

  拍数という土台の上に踊る音の連なりだと思っています。

  縦の動き、と横の動き、そして個別の音と横への連結。

  そして全体を貫くビートです。

  そこに「思い」という通奏低音が響いている。

 

  ですのでシラブルを無視して英語に接する事ができない、

  というのは同じです。

  ただ、多くの日本人は文字を英語の原体験として持っているように思います。

  僕自身も英語に関してはそういう固定観念はありました。

 

  教科書の中の文字、参考書の中にぎっしり書かれた文字、

  そこを入り口にして理解を深めるというアプローチは僕からすると

  とても理解ができる、日本の翻訳ベースの教育の弊害ではありますが、

  僕自身経てきた過程なので理解できるものでもあります。

 

 

:シンプルな事なんです。

  I amはアイアムではなくアイィエァムという響きになる。

 

  I とam の間にYのサウンドが生まれているんです。

  その音こそが正解であり、どう書くか、ではないんです。

 

  音が出せれば楽しいし、通じればやはり楽しくなってきますよ。

 

:スピーキングの話をしたいのですが、

  上川さんでもこれを言いたいけど言えない、という

  もどかしい体験などは過去にあったのでしょうか?

 

:大学の最初の頃、少しだけ表現の暗記に頼っていたことがあります。

 

  「Does this live up to your expectation?」

 

  なんてのを覚えて無理矢理使おうとしていました。

 

  ただ、無理矢理暗記したものを使おうとするととてもパワーがいる。

  余計な力がいると思ったんです。

 

  英語は子供も大人も表現の差はあれ、シンプルな構造の文章で会話が成り立っている。

  だから、ややこしい表現に頼るのではなく

  シンプルなものをつなげていくことにフォーカスしました。

 

:僕は会話、というものの構造、

  あとは会話に於ける心理構造の違いではないかと考えています。

 

  日本人は知識や、論拠を誇示し人を圧倒しようとするような意識

  がシビアな会話では生まれている気がします。

 

  ただ英語での会話というのは誰でもわかる言葉で共通理解を得ようとする。

  カジュアルさ、親密さをだそうとする。

 

  日本人の心理にあるようなひねくれたものはあまりないような気がします。

 

:それはものすごく正しい見方です。

  英語での会話は自分という確固たるものを軸に進んでいく。

  

  日本人は遠慮気味で、間接的な表現を使うことで自分でない自分を見せようとしたり、

  自分ではないもの、になろうとする傾向がある。

 

  「自分を捨てる」という考えは日本特有です。

  むしろ「自分に戻る」という感覚でいいのではないか。

 

:いい言葉ですね。

  確かに日本人は相手によって態度や心理が変わってしまうという

  ところはあるように思います、勿論自分も含めて。

 

  その心理構造がサービス業などでお客さんに対してのきめ細やかな

  サービスなどの下支えにはなっているかとは思いますが、

  その複雑な心理構造がクレーマーやコールセンターへの電話だけ偉そうな態度になったり、

  レストランなどで横柄な態度を取る、ということにもつながっているように思います。

 

:英語会話の練習では、欲求や好みを伝える練習をすることが大事だと思います。

  子供のようにシンプルに思いを伝えるという感覚を取り戻したほうがいいと思う。

 

:そう思います。言語の成長の端緒はシンプルな願望です。

  あれとって、これやってという「わがまま」から始まる。

 

:ええ、「これでよろしかったでしょうか?」などと話す赤ちゃんはいません(笑)

 

:ではここで、リスニングの事をお伺いします。

  上川さんでもリスニングに苦労した記憶はありますか?

 

:大学のときにアメリカ人同士が話していて、

  少しわからないな、と思った記憶があります。

 

:それでもちょっと、だったんですか?

 

:なんかね、不思議とちょっとでしたね。

  その後アメリカ人の友達が増え、いつの間にか聞けるようになってました。

 

  大学卒業する時には音楽、映画でもアメリカ英語ならほとんどわかってました。

  イギリス英語は半分くらいしかわかりませんでしたが、

  英語喉を発見してからはほぼ聞けるようになりました。

  英語はまず聞けないと、何も始まらない。

 

:リスニングが苦手という日本人は多いです。

 

  僕自身も日常の中では聞き落とす事や、聞き返す事もあります。

  特にやはり外国人同士の会話を傍から理解するというのは今でも難しいと感じます。

 

  アクセントが強いと全く、というときもあります。

  上川さんご自身はそこをどう乗り越えたのでしょうか?

  なにかヒントになったこととかありますか?

 

:アメリカ人の友人が多かったというのが大きいです。

 

:それはやはり実践の場を多く体験したということでしょうか?

 

:それもそうですがやはり「シラブル」です。

  そこを意識せずに成長は望めません。

 

:それはすごくわかります。

  僕も英語を聞く時に後から追いつく意識ではなく、

  英語のリズムに乗って理解していくイメージを持てたときに

  グンと伸びた気はします。

  サーフィンのような感覚でしょうか。

 

:ええ、英語は速いんではないんです。

  英語のリズム自体はゆっくりなものです。

 

  語彙を知らないからわからないのではないんです。

  シラブル、つまり英語のリズムという「本質」を

  掴めば、きっと誰でも理解できるようになると思いますよ。

 

:とても大事なポイントだと思います。

  では、最後にお伺いします。

 

  上川さんご自身が今の日本人の英語学習者に一番気付いてほしい事はなんですか?

 

:英語喉をうさん臭いと思っても「シラブル」だけは信じていただきたい。

  マクドナルドは6音節ではないです。それはどうか理解してほしい。

  あと、喉発音を信じていただけるなら喉の奥で響く音を出す意識は持ってほしい。

  そして聞けて、それを言えれば英語はできる、ということです。

 

  そして沢山友達を作りましょう。

 

:今日は貴重なお話をありがとうございました。

 

 

 kazu

 

 

上川一秋

広島県安芸津町出身。同志社大学(英文科)卒業後、大阪市の高校にて英語科教諭。

その後、シカゴ大学(米国イリノイ州)にて修士号及び博士号(社会学)を取得。

日本学術振興会特別研究員を経て、政策系コンサルティングファームにて教育アナリスト。

専門は社会学と教育統計分析。米国ワシントンDC在住。