第6回・同時通訳者/松本道弘 カテゴリ: インタビュー


 

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松本道弘から日本人へ、6つのメッセージ。

 

 

 

:松本道弘と言えばTIMEという印象の日本人は多いと思います。
  今、TIMEについてはどう思われますか?

 


:TIMEなんか読んでると今でも発見があって学びがある。

 



  コーヒーの話題なんかがあればそういう内容に刺激され感化されたりしてね。



  日本の茶道と比べてみたり、自分でもコーヒーを淹れてみたりしてね。
  面白いもんだね。



  TIMEというのは恋人ではなく「嫁」にしようと思ったんだよ、昔は。
  なかなか近づけない存在だった。


  Will you marry me? なんて恐れ多くて言えなかった。

  

  TIMEと自分の関係はそこに心があるかないで、
  今はもう空気みたいな、女房のような存在だね。


    Take TIME for granted.って感じだね。



   週刊新潮とか文春より今ならTIMEの方が早く読めるか同じくらいか、だと思う。

  


:間違いなく最もTIMEを読んでいる日本人は松本先生だと思います。
   そこは揺るぎようのない事実だと思います。



:TIMEが出たら隅から隅まで全て2回は必ず目を通しているからね。


  これもNONESチャンネルのニュースキャスターの仕事だからね。
  Part of the job、だね。



  地球儀を眺める様に一度目はスキミング

  二回目はしっかりと読むスキャニングをする。


    ただ読む、見るだけではなく、Observeをしていく作業だね。



  シャーロックホームズの受け売りだけどね(笑)


  1人二役で1人ディベートをしたりもしているよ。
  TIMEで得た情報を自分なりに消化して、昇華(sublimate)するためにね。

 



    ディベートは両論を闘わせて新しい価値観を創造する

  クリエイティブなプロセスなんだと思う。
 


:TIMEを読みたい人というのは沢山いて、ただ多くの人が諦めてしまいます。
  やはり壁は高く厚い。


  先生から何かアドバイスはありますか?



:わからなくても途中で辞めない人間というのがいる。
  本当に伸びる人間はそこに食らいつく気概がある。

 



  本当に深い事はそう簡単に身に付くものではないからね。
  だから諦めずに難しいものにもついていく事だと思う。

 


  天才とはなにか?と問われれば
  続けることができる人、なんだと思う。

 


  だから頑張って続けてみる。
  できる人を見つめ、学び、成長していく。


  トップから学ぶ。

 



  勝てない人間を師範にする。
  勝てないライバルを持つ、
  そして怖い部下を持つ。




  今でも自分の周りには怖い部下が沢山いる。
  そのことを幸せに思っている。
  


    今は自分に英語0段を与え、勝ち負けではない世界に身を置いている。
  ただ、やはり自分を常に磨き高めていく「行」は死ぬまでギヴアップはしないだろう。

 

 


:基礎をしっかり押さえ、継続していくことの大切さ、ですね。
  



:英語を通じてバランスを身につけ、人間力を養っていく。
  人間教育だからね、英語というのは。


  
:そこは長年取り組まれているディベート、

  というところにも通じる考えではないでしょうか?

 

:そうだね。


  思いを伝え、その熱意を競い合うことによって研き合うことにより
  人間の魂に火をつけるにはディベートはとてもいい。



  それは英語か日本語かという問題ではない。


   
  まずは日本語でもいい、しっかり考え、そして深く取り組む事が大事。 
  だからdebateの訳は「究論」。

 


  論を究め合った後で英語でもやってみればいい。



  その時、本当に使える英語が身に付くのだろう。
  借り物ではなく、本物の英語が。



:先生が言う英語を捨てろ、という言葉にはそこの思いがあるんだと思います。
  捨てろ、という強い言葉の裏には

  「一旦離れて俯瞰せよ」という意図があるのでしょうか?



:そうだね。そしてもう一つあるのは、女性との関係のようなもので
  追っかけるものではなく、女性を振り向かせる、その姿勢が大事。


  自分から追うだけでは見えてこないものがある。
  振り返らせ、じっと待つ。
  追うより待つ方が忍耐力も体力もいるもの。
  
  アウトプットを押さえインプットをしっかりすれば、
  英語の方からやってくる、そんな時期がいずれ来る。

  そこに重力がいるんだね。
  自分にしっかりその重力があれば、英語を引き寄せられるんだね。

  英語だけを追っても空しいのは
  一日5時間何時間も割いて英語をやろうともNYにいる  

   ホームレスにすらかなわない。

 

  英語という表面上のモノを求めている限りこれは英語術。


  英語道は英語のココロと人間のココロを共に学ぶ。


 
  バイリンガリズムはやはり言葉にとらわれすぎる。



  バイカルチャリズムとなると言語を超越する。

 

  今はEnglishesの時代。



  異文化理解能力が問われる時代だ。
  文化を、考えを吸収していかなくてはいけない。



  バイリンガリズムの追求では外人コンプレックスの壁は超えられない。




:それは全ての日本人にとって大切な考えだと思っています。


  

:時代がどんどん変わっていくからね。
  なかなか難しいけれど。


  自分は何度も英語を捨て、自分と向き合い生きてきた。


  英語の通じないチベットや中国にも行き、死と向き合い
  何度も修羅場をくぐってきた。


  いつ死んでもいい、という気持ちで挑んだ1人の股旅だった。



  ゼロになることを恐れず、自分にとって怖い人間を回りに集め
  自分を高めていく。     


 
  日本は「道(みち)」がある以上滅びないと

  サイデンスティッカー(源氏物語の翻訳者)は言った。


  道(みち)はDNAみたいなものだから。



  日本人としての人間力を身につけていく事がやはり大事。


  英語を通じて学べるエッセンスは時空を超えて伝わってくるものだよ。


  マーティンルーサーキングのスピーチは時を超え、場所を超え、
  ここ日本にいてもそれを感じ取る事ができるはず。
  


  海外に行く事そのものが大事なのではない。


  大事な事は自分の心がけひとつでどこでも学べる。
  日本にいても学べるもの。


   
  場所にこだわる必要はない。
  重心をどっしりと持ち、ブレない姿勢を持つ事が大事。


  電池ではなく磁石になることだね。


  電池はすぐになくなる。
  そして型が合わなければ使い道がない。

  磁石は自らが磁場となり力を発揮する事ができる。
  



  だから英語道は滅びない。
  



  英語だけじゃない、人と人が向き合い心を動かす力。
  コミュニケーション力というところに行き着く。


:英語に対する深い思いというものが当然あると思います。
  だからこそ、英語を捨てろ、英語を忘れろ、という思いが生まれる。


:やっぱり英語にフラれたくないんだね。


   
:13歳から60年間、英語に向き合ってきた今でも
  その思いはあるのでしょうか?



:あるねえ。まだまだ知らない英語が出てきたり、
  未だに覚えられない単語とかが出てきたりする。
  相性というのがあるんだね。


  何度見ても何度辞書を調べても覚えられないものがある。

  
:日本にディベートを広めた事で知られる松本先生ですが、
  ディベートについて、一番惹かれたところはどこだったのでしょうか?

:とっさに考える決断思考、 critical thinking。
  即決思考の連続、それが人生のドラマ。

 
  昔、スピーチコンテストのあと

  Why(なぜか?)という質問に答えられない女の子が会場で泣き出した。


  外人並みの発音をしていたスピーチ大会の入賞者が。
  スピーチの限界。私の心はディベートに移った。


 
  動く標的が眼前にいるから丸暗記は役に立たない。


  記憶力だけがモノを言うスピーチコンテストなんかでは
  こういうアクシデントは決して起こらない。
  
  真剣勝負のディベートの中で多くの事を学んできた。
  外国語だけをやっても何も身に付かないんだよ。
  


  ディベートの中で身に付く、限界を知る力を体得することが大事で、
  同時通訳なんかをしていても100%の満足というのは絶対に得られない。


  あの時ああいえばよかった、言いたい事が言えなかったと
  夢でまで後悔して初めて「成功」と言えるのではないか。



  無知を知らせてくれるものでもある。



  最強のディベートは何か、と言われれば「相手を傷つけないこと」。



  その為に僕は「六角ディベート」というものを考え出した。



  物理学から化学、数学まで多くの事を勉強した。

  そして生まれた循環ロジック、スパイラルロジック、その結集が
  六角ディベートなんだよ。

 
  全ての面がくっつく六角は攻撃しても殺さない。
  相手を活かすための攻撃は活人剣と同じで、究論道(The Way Of Debate)の極意だ。
  傷つけないし、傷つかない。



  学生ディベートには勝ち負けがある。
  でも社会に出れば勝ち負けではない部分に大切なものある。
  quarrel から art に変わる。



  お前は間違っている!

  と相手に突きつける事は社会では混乱を生み出すだけで、


  何も生み出さない。

 

 


  ビジネスにつながる実社会で通じるディベートはないか、というアイデアから
  六角ディベートを生み出した。


  最後は握手で別れる(clean break)ことのできるディベート。
  一度やってみればわかる、終わった時に笑顔で
  握手で終われるディベートがある、ということを知ってもらいたい。


  勝っても負けても喜びがあるんだね。



  「六角ディベート」には音楽があり、愛がある。
  


  セレンも今度一緒にやろう。

 


 
:はい、必ず。僕も沢山学ばせてもらおうと思っています。 


  
  同時通訳という仕事を通じて、なにか今でも覚えているエピソードはありますか?

 


:やはり西山先生のことかなあ。

    


  彼は天才的な人だった。

 

 

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(生前の西山千氏)

 


  ある時同じ現場で通訳をさせてもらったことがあって、   
  経済の話に及んだ時 Psychic Incomeという言葉が出てきた。

  とっさに「心の収入」と訳した僕を西山先生はよくやったと褒めてくださった。
  あのときは嬉しかったなあ。

  何度も、そしていつでも叱られた。
  現場でも小さな紙に書かれたメモが回されて何度も叱られた。 
   
  プロ通訳の厳しさを叩き込まれた。 
  

  ある時、またメモが回ってきて、ああ、また叱られるのか、

  と思ってみて見ると


  「同時通訳は難しいですねえ」

 

  と書かれていた。


  そして僕の方を向いてニコーっと笑った。
  あの笑顔を今も忘れる事ができない。



  こんな達人でも難しいと思うものなのか、と。
  そして叱っても叱っても最後は手を差し伸べるあの優しさは
  自分もいつも持っていたいと今でも思っている。


   
  通訳者に一番大事なものは「気迫」だと仰ったとき

  気迫って英語でなんていうんですか?

  と尋ねた。

  大衆の面前でだよ。

 
  「知りません」と言われた。


  素直に驚いたね。
  気負いもなく知りませんと言えるその姿に。



  先生はかっこよかった。ときめきを感じていた。



  いつも後ろをちょこちょこついてまわっていたのを覚えている。

  ルックスも声も抜群によかった。


  緊張感がいつも僕と先生の間にはあった。
  あの緊張感は忘れられないなあ。



  呼吸すら盗もうと思っていた。


  
:先生の人生の中で英語に出会って、人生が変わって、今を生きる松本道弘がいる。
  今振り返ってみて、英語に出会って良かった、と思いますか?

:遠い昔、あの先生に出会い、あの一瞬で全てが変わった。

  あの一日が自分の原点だった。



  大学生の時、おふくろがあの先生(盛野校長先生)に会いにいこうと言い出した。
  おふくろも嬉しかったんだろうね、中学3年のあんなに勉強嫌いだった私の喜ぶ姿まで
  はっきりと覚えていた。
  
  そして会いにいった。
  

  先生は

 「ぼくは校長の仕事より現場で教えることに生き甲斐を感じるタイプです」

  と言っておられた。
 


  その話を聞いて、プロ教師の凄まじさを改て感じた。
  そして同時に怖さも覚えた。
 


  一瞬で人の心を得る事もあれば、一瞬で人の心を失うこともあるんだと。


  
  人生の中で名人になるコツは
  半分勝って半分負ける、という言葉がある。



  負け続けるということは努力が足りない、
  勝ち続けるという事は負ける相手に出会っていないだけ。

 


  自然体でいいんだよ。


  
  木は倒されたとき、その切り口で一番真価がわかる。


  人間も同じ、負け方でその人間の真価は問われる。


  さわやかに負け,ふつふつと燃える炎を宿せるか、が大事。



  叱られ上手でいないといけない。
  そういう人は必ず伸びる。
   



:日本には英語を学ぶたくさんの人がいます。
  これから学ぼうという人も沢山います。

  松本先生のご経験から、

  最後に日本人へのメッセージをいただけますでしょうか?



まず第一に英語力はやはり必要だという事。


  
  簡素な英語でいい。
  相手の心の琴線に触れるシンプルな英語を使うこと。


  
  そして相手が何をいいたいかを読む、
  自分が言いたいことではない。



  相手の欲しいもの、自分の中のコップを空っぽにして相手を読む。


  


  第二に、ロジックだけは必ず通す、ということ。

 


  日頃から簡単でロジカルな英語を求めることが大事だね。

 

 

  そして第三、ユーモアの精神を忘れないこと。

 


  常に外交官であり、エンターテイナーであれ。


  その為には総合力が必要になってくる。
  窮地に笑いで返す力だね。


  
  ものにはリズムがある、緩急が大事なんだよ。


 
  プロの通訳者はユーモアをとても大事にするものだ。
  即興性というのが大事なこと。





  第四にグローバルな知識。

 


  引き出しを沢山持つこと。 

  具体的には世界に対する知識を入れておくこと。

  相手は外国人なのだから。相手を良く知ることが大事。 

 



  第五に知識だけではなくWisodmも増やす。




  ユーモアというものには湿り気がある。
  アメリカには攻撃的破壊的なギャグが多い。
  ややもすると下品になりがち。

  コモンセンスは必要だね。
  気配り、笑い、そういうものを忘れない事が大事。

  私は大阪出身なので変化球には強いよ(笑)

 


  そして最後の六つ目、自分のリズムを失わないこと。

 


  
  人間のリズム、エモーショナル、フィジカル、
  そして健康管理も大事。


 
  プロ同時通訳者は倒れる事もある。
  だからこそ、バランス、リズム、そういうものに気を配ることが大事。



  
  メロディーとリズムをハーモナイズさせる。

  バランスをとる、術と道を融合させながら。




  勝ち負けではなく、相手をを活かしつつ引き寄せていく。
  型ばかりを追い求めるといつか捨てられてしまう。


  常に変わらない普遍のものを身につけないといけない。
  過去、現在、未来を見通していかないといけない。



  肯定と否定、勝った負けたの話ではない。
  何かを生み出すことをするのが大事なんだよ。
  


  音楽を生み出さないといけない。
  人生も、ディベートも音楽なのだから。



  英語はね、結局上手い下手ではない。

  努力に敗北はないんだ。

 
  敵は自分の中に在る。
  最大の敵は自分なのだから。

 



:本日は貴重なお話をありがとうございました。

 


:こちらこそ。

 

 

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松本道弘/

同時通訳者、国際ディベート学会会長、紘道館館長

 


1940年大阪生まれ。関西学院大学卒業。
日商岩井に勤務する間に、海外渡航の経験なしに独力で英語を磨く。



その後、西山千氏(アポロ月面着陸時に、日本で初めて英日同時通訳)に師事し、

その推挙でアメリカ大使館の同時通訳者となり、後にNHKテレビ上級英語講座の講師を勤める。
日本に初めてディベートを広めた人物として知られる。



現在、インターネットテレビNONES CHANNELでNo.1国際英文雑誌「TIME」の解説番組
「TIMEを読む」に毎週出演。TIMEと公式契約がある唯一の日本人である。

 

全国から英語の猛者が集まる場、紘道館の館長を勤め、国際ディベート学会会長でもある。
提唱する英語道に基づいたICEEコミュニケーション検定試験を年1回主宰。
英語と英語教育、日本文化に関して140冊を越える著作がある。

 


ヒストリーチャンネルや、ナショナルジオグラフィックなど世界の人気テレビ番組に、

英語で日本文化を紹介出来る存在として起用されている。

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