第2回 「第二言語習得研究家/豊田典子さん」
カテゴリ: インタビュー
海外へ留学し突然日本の事をバカにしたり、
英語を話せない人を下に見たりする人を僕自身何人も見てきましたが
それも何か言語学的、社会心理学的には何かの影響があるのでしょうか?
そういう現象はおこりやすくなります。
実は、セミリンガルは、経済的水準の低い国から高い国へ移住し、
母語が中途半端な上に第2言語を乗っけようとするときに起こると指摘されています。
言語習得は、そのようにコンプレックスが強く関わってきます。
人をバカにすることで、
自分のアイデンティティを守りたいのだと思います。
そもそも、アメリカでバイリンガルという言葉は
1970年代までは差別的に使われていました。
「バイリンガルは知能が低い」と思われていた時代があったのです。
アメリカでは知能テストは英語のみで行われていたため、
ヒスパニックの子供たちなどはどうしても点数が低くなってしまう。
そういったデータが教育者や研究者によって普通として認められていました。
その後、バイリンガルはモノリンガルを認知発達面で追い抜くという実証データがあがり、
修正されていますが、
日本でも地域によっては、「ハーフ」「バイリンガル」に対する差別的な響きが残ります。
いつバイリンガルになったのかという時期で分けると、
バイリンガルは、早期バイリンガルと非早期バイリンガルに分けられます。
早期バイリンガルは母語も第2言語も同じ言語野のみで英語を処理し、
非早期バイリンガルは他の部分(論理を司る野)を使いながら英語を
処理しているというMRIの実験があります。
人はなぜか、早期バイリンガルのように言語野だけで何も考えずに
英語を話す状態に憧れてしまいますが、
非早期の方がたくさん脳を使ってるんだからすごいじゃんと思います(笑)
通訳にはむしろ非早期バイリンガルのほうが
向いている気がしますがいかがですか?
まさに、その通りです。
通訳はしっかりとした母語がないとできない仕事ですので、
おっしゃる通りなんです。
日英通訳の世界で成功している人は、
私の周りではほとんどが非早期バイリンガルです。
的確な日本語に訳すためには相当の日本語レベルが必要です。
早期バイリンガルでも、母語として確立している場合は問題ないようですし、
英仏通訳など言語が近く2言語ともに母語化しやすい要因もあるでしょう。
いずれにしても2言語の習得だけではなくて、通訳スキルを身に付ける必要があります。
また先ほど上げたバイリンガル以外にも
均衡バイリンガル(2言語が同等レベル)、偏重バイリンガル(どちらかの言語が優勢)、
など様々なバイリンガルのカテゴリーがあります。
ただ偏重バイリンガルであっても充分仕事で英語を使えるレベルです。
無理に早期英語教育を始める必要はない1つの良い例だと思います。
早期英語教育の裏には親の期待値が高すぎる、ということはあると思います。
あとはコマーシャル的な問題でしょうね。
早くやらないといけない、
という宣伝文句に過剰に反応してしまっているんです。
本当の意味でのバイリンガルを目指すには継続的な負担と努力、
そして犠牲にするものもでてくるんだという決意がいる。
つまり子供の人生の終着点を考えてあげないといけない。
日本での大学受験を考えているのであれば、日本語をまず育ててあげないと
高い教育レベルの大学には絶対に入れません。
ただ、どんなに何度も言っても、みんな平気で子連れ留学などをしてしまう。
早期英語教育は親が自分の満足感を得るため、という側面があるんです。
親がそう決断したら子供は従わざるを得ないですから。
世界的に、特に敗戦国や元の植民地などでは同じような現象がおきています。
敗戦や支配から連綿と続く社会心理学的な要素が大きいのかもしれません。
親の満足感も大切なことです。親がハッピーなことは子どもにとって良いことです。
ダメ!と警鐘をならすよりは、まずはそれを受け止めて、子どものためなのか、
親の満足感なのかを見極めることが大切だと思います。
メリット、デメリットの両方を押さえつつ、
保護者が何を目指しているのかをクリアにし、
無理強いをしないことが大事。
そうは言っても第二言語を学ぶメリットは大いにあります。
それはやはり英語ができると人生の選択肢が限りなく広がる、ということ。
セレンさんがまさにそうじゃないですか。
ですので、
今日お話した
「無理に訳させたりしない」、「インプットを大事にして上げる」
などに気をつけてあげればいいと思います。
そして子供の早期英語教育は親が決断し、
親の意思の元に行われていることを親自身が認識すればいい。
子育てという素晴らしい行為の中での大切な1つの決断であることには変わりないので、
ご自身が決めた子供へ早期教育を与えるという決断は自信を持って行って欲しい。
子供は親の心を読むものです。
親は意外と知りませんが子供は全て親を喜ばしたくてやってるんです。
親は子供のため、と思ってますが、子供は親のため、と思ってやってるんです。
是非、メリットとデメリット、両方としっかり向き合い、
そしてどうしてバイリンガルにしたいのか、をじっくり考えてみてください。
今日はお時間頂きありがとうございました。
豊田先生書斎にて/聞き手:セレン
豊田典子(大学講師、会議通訳、第二言語習得・認知言語学研究者)
第2言語習得(バイリンガリズム)、認知言語学研究。応用言語学博士後期単位取得退学。
1990年より日系企業欧州支社駐在(支社長)、その後ロンドン大学大学院(応用言語学)
を経て独立。
会議通訳、国際機関(IOM)コンサルタント、文科省プロジェクト、
企業言語教育アドバイザー等に着任。現在、英国法人経営、大学講師、会議通訳。